年代物の直火用マキネッタの整備~分解洗浄とパッキンの交換など~

はじめに

こんにちは。からあげです。


長い間、ノンカフェイン生活を貫いていた私だったが、本物のコーヒーの味を知ってすっかりコーヒーに嵌まってしまった。実家で淹れてもらったコーヒーを飲んだ瞬間、私のノンカフェイン生活は終わりを告げた。

定番のペーパードリップから始まり、手順の煩雑さを避け目新しいフレンチプレスに飛びつき、そしてさらなる新境地を求めてマキネッタにたどり着いたのだった。

直火用マキネッタは、ガスコンロなどで湯を沸かしその蒸気の圧力でコーヒーを抽出する器具で、家でも簡単にエスプレッソを楽しめる。
本場イタリアでは高圧抽出するエスプレッソマシンで淹れたものだけをエスプレッソと呼び、低圧抽出する直火用マキネッタのものはモカと呼ぶ。

そんな区別があるものの日本では一緒くたにされて全てエスプレッソと呼んでいる。私はマキネッタで淹れたモカもエスプレッソと呼ぶことにする。

年代物のステンレス製マキネッタを手に入れる

今回、ネットの個人売買で手に入れたマキネッタ。
売り主さん曰く、「約35年前に有名デパートの売り場で購入し、1年ほど使用していたもの。その後は押し入れの奥深くで眠っていた。」

マキネッタにはアルミニウム製とステンレス製のものがあるが、熱伝導率の良いアルミ製の方が味が良いと言われる。だがアルミはアルツハイマーの原因になると密かに言われており、私は身の回りのアルミ鍋などを丈夫で安全なステンレス製に置き換えている最中なのだ。

そこでステンレス製に絞り、出品されている中古品を漁っていると、ひときわ上品で気品漂うマキネッタを発見した。
メーカー不詳のイタリア製ではあるが、昔の有名デパートが粗悪品を扱うはずはない。
値段も安かったし、出品者の方が非常に感じが良かったので、躊躇わずに購入することにした。図々しくも値引き交渉して少しまけてもらった。笑

容量は200mlでカップ4杯分。
持ち手はプラスチック、パッキンはゴムだが、ほかはステンレスで作られている。

下の水を入れる部分をボイラー、上の抽出されたエスプレッソが溜まる部分をサーバーと呼ぶ。

ボイラーを上から覗く。
若干サビが見れるものの、金たわしで擦れば簡単に落ちる軽微なもの。

ボイラー上部のネジ部分。

ボイラーには安全弁が装備されている。
ボイラー内が規定圧力より高くなると、自動的に弁が開いて圧を逃がす仕組み。

ボイラ内から安全弁を見る。

ボイラーの底には強度を高める凸凹あり。
底が平らでないためIHクッキングヒーターやラジエントヒーターでは使えない。

メーカーロゴやMADE IN ITALYなどの刻印あり。

18-10の刻印は、鋼に18%以上のクロム、10%以上のニッケルを添加した「18-10ステンレス」を意味する。18-8よりニッケルの含有量を増やして耐蝕性、耐久性が大幅に向上している。

中心のロゴはgbとある。今ネット検索してみると、イタリアの「gb」というメーカーのものらしい。メーカーが分かって本当に良かった。

挽いたコーヒー豆を入れるバスケット。

バスケットは漏斗状になっている。

ボイラー内に水を規定量入れてバスケットを挿入する。

バスケットの左にあるのが減量フィルター。
これを装着するとおよそ半分のエスプレッソを作ることができる。

減量フィルターの下側には穴空けの際に出来たバリがある。
指で撫でると引っ掛かる。

減量フィルターの使い方はバスケットの上から被せるだけ。

減量フィルターを入れたところ。
見た感じバスケットの容量が半分になった。

サーバーのフタのガタはなく、開閉操作はスムーズ。

サーバー内のようす。
サビや汚れはなく綺麗。

問題はサーバー下部のゴムパッキン。
購入後、パッキンは一度も交換されておらず、長期保管されるうちに硬化してカチカチになっている。

マキネッタはこのパッキンが命。1気圧以上に内部の圧力が上がらないと抽出できない。

ハンドル・つまみの取り外し

掃除と点検を兼ねてハンドルとつまみを取り外すことにした。
ビスが固着していたので、防錆潤滑スプレーを吹いてしばらく置いてからドライバーで緩めた。

若干硬かったものの、ハンドルを取り外すことができた。

ハンドル取り付け部と蝶番周りに傷みなし。

ハンドル取り付けビスはステンレス製だったが、若干のサビが浮いていた。
18-10ステンレスは錆びにくいというだけで全く錆びないわけではない。

ハンドル内部の空間

若干の欠けはあるが、大きなひび割れなどはなし。

問題はつまみの方だった。
取っ手を取り外しても、フタが垂直に開かず、60度斜めになるくらい。
通常のドライバーだと柄が当たって回せない。
柄の短いスタビドラーバーでも大きすぎて当たる。

柄が90度に曲がったドライバーもあったが、今度は先の大きさが合わず。
止むなく通常のドラーバーを斜めに当てて強引に回すことにした。
なるべく軽く回るように防錆潤滑剤をたっぷり吹いてから緩めた。

慎重に作業を行ってなんとか取り外すことができた。
ネジ山はプラスチックなので何度も無理はさせたくない。

取り外したつまみのビス

ハンドルとつまみのビスを並べて撮影。

つまみの取り外した跡があるものの傷みはなし。

ハンドル・ツマミは強化プラスチック製

触ると成形時の線が出っ張っていて気になる。

成形の出っ張りを拡大。

ハンドルの先端。切り離したところにも出っ張りがある。

ツマミにも成形時の出っ張りがあちこちある。
使う前に紙やすりで角を丸めておきたい。

硬化したゴムパッキンの取り外し

明らかに硬化している30年以上経過したパッキン。
マイナスドライバーの先を差し込もうとするが、固着してしまって入りそうにない。
無理をするとステンレスフィルターの方を傷めてしまいそうだ。

どう考えてもパッキンは要交換なので、先の尖ったキリでいくつか穴を空け、その穴を繋げて切って外してしまうことにした。

ステンレスフィルターを傷めることなくパッキンのみの切断に成功する。

パッキンのカスが溝に残っている。

正確な大きさを測るために、できるだけ原型を残してパッキンを外した。

ノギスで大きさを計測してみると、

パッキン 内径50mm 外径63mm 厚さ4mm
ステンレスフィルター 外径 60mm

だいたいの数値が分かった。

段差が付いているパッキン。内側に張り付いていた側は粘着質になっている。

パッキンのカスを取り除いたあとステンレスフィルターを置いてみる。
フィルターには裏表があり、写真手前が凹んだ形状になっている。

ステンレスフィルター上側

ステンレスフィルターの下側

こちらはサーバーの底から見える方。

ステンレスフィルターを外したサーバーの底

特に傷んでいるところはなし。

ボイラーとの接合部のネジ山にも傷みはなし。

紙ヤスリで磨いて角のバリを取る

替えのパッキンが来るまでの間、ヤスリで角のバリを取っておくっことにする。
手で持つ度に引っかかりストレスとなる。

丁寧に磨いて滑らかにし、気持ちよく使えるようにする。

一部は通常のヤスリを使用し、細かいところは#120,#240,#400の紙ヤスリを使用した。

丁寧に微粉を取り除いたあと、重曹を溶かした水に漬け置きする。
アルミ製のものには重曹不可。

交換用パッキンの入手

BIALETTI(ビアエッティ) ヴィーナス(4カップ用) パッキン&ステンレスフィルターのセット

替えのパッキンを探していた当時はメーカー不詳だったため、純正品ではなく大きさの合う他社製品のものを選んだ。とは言ってもgbという会社はすでに廃業したもよう。
マキネッタといえば、イタリアのビアレッティというほどの知名度がある製造会社で消耗品の販売も行っている。互換性のある安い中華製パッキンもあるが、品質が定かでないので今回は止めにした。

バリエッティのモカエキスプレスの3/4カップ用も合いそうだが、フィルターの材質が本体に合わせてアルミ製だった。少々割高だがステンレス製のヴィーナスの4カップ用にした。
なぜかパッキンのみの販売はされておらず、フィルターとセットでの販売のみとなっている。日本では入手しづらいためか、売り切れになっていることが多い。

フィルターはステンレス製で耐久性があるので大事に使えば一生物。パッキンはゴムではなくシリコン製で1~2年毎の交換となるもよう。

Amazon商品ページより転載

箱裏側

適合機種

VENUSの表示あり。英語とは微妙に綴りが違うイタリア語。

シリコンパッキンとステンレスフィルター

パッキン外径 約64mm

柔らかいものの計測はだいたいの数値になる。精密な機械ではないので細かいことは気にしない。

内径 約50mm

厚み 約4mm

フィルター外径 約60mm

フィルターにパッキンを嵌めてみる。
さすが老舗メーカーのビアレッティだけにピッタリ。

裏返してフィルターとパッキンの寸法の違いを確認する。

サーバーに嵌めてみる。まるで純正品かのような適合具合。

使っているうちに馴染んでくるから多少の隙間は問題なし。
初期状態でぴったりだと、馴染んでからは外しにくくなる。(外れにくくなる。)

純正品とビアレッティ(ヴィーナス)を比べる。

裏返して撮影

メッシュの違い

僅かな誤差というくらい。純正の方が若干大きめ。

フィルターのバリも取っておく。
バリは内側(取り付け状態で見えない側)に出ていたが、分解洗浄したときに引っ掛かりがあるのはストレス。気分良く使うために些細な手間を惜しまず。

整備後のマキネッタ

仕上げにピカールで磨きたいところだが、今は手元にないのでまたの機会にしておく。
それでは少しくどくなるが、整備後のマキネッタを紹介しよう。

ボイラーのようす

艶のある美しい形状でつい目が行ってしまう。

安全弁の2面幅は9mm。スパナで外そうとしたが、まったくビクともしなかったので外すのは止めた。こういうときは6点で力を分散させられるメガネかソケットレンチが欲しいところ。

壊し癖のある私だが、失敗の度に学習してようやく止め時がわかるようになった。笑

内側から見た安全弁

刻印を消さないように#400の紙ヤスリで軽く磨いておいた。

バスケットは細くなっている先を重点的に磨いた。

バスケットのフィルターは取り外し不可。#400のペーパーで軽く磨いただけ。

減量フィルターの円周部分にバリ多くあり。もちろん丁寧に磨いた。

穴の裏側の方にバリが出ていた。

減量フィルターのつまみだけはどうもアルミ製のようす。
手触りと見た感じでそう判断した。

ボイラーにバスケットをセットした状態。
隙間はなくピタリと嵌まっている。

減量フィルターをセットしたところ。
つまみがアルミ製と分かり、できるだけ使わないことに決めた。

そもそもエスプレッソの1杯分は50ccで量が少なすぎ。がぶ飲みしたい私には200ccでも少ないくらいだ。笑

ヤスリがけの跡が残るサーバーだが、それでも美しい。
金属みがきのピカールで磨くまで待ってておくれ。

ちなみにピカールとは金属みがきの定番中の定番商品で、磨き粉が入ったペースト状のもので金属みがきの仕上げに欠かせないもの。磨くと鏡のようにピカピカになるため、中毒性が高く何でもピカールで磨きたくなる。作業に没頭すると時間があっという間に経ってしまうので磨くのもほどほどにしてまっとうな社会生活を送って欲しい。笑

フタの開閉はスムーズ。蝶番のガタもなし。

漬け置き洗浄でピカピカのサーバー内部。

サーバー底のパッキンとフィルター。
こちらを下にして持ち上げたり、テーブルの上に置いたりしても外れることはなし。

ボイラーとサーバーを接続させたところ。

柔らかシリコン製パッキンの弾力性でいい感じに締め付けられた。これなら接続部から漏れることはないだろう。

おわりに

30年以上前のイタリアgb社製の年代物のマキネッタはこうして復活させることができた。
新品を買えばいいじゃないかと思われる読者もいるかもしれないが、最近のワタシは昭和辺りの古いものすごく惹かれる。

イタリア製ではあっても、丁寧なモノづくりの気概が伝わってくる。いいものはいい。昔のものは丈夫で長持ち。最近のものはペラペラフニャフニャですぐ壊れ、使い捨てに。ビアレッティの現行版ヴィーナス(4カップ)のパッキンが合うのが分かったので今後も安心して使用できる。

一生もののマキネッタを手に入れたかな。そんな気がするおっさんだった。

次回は整備したマキネッタでエスプレッソを淹れて飲んでみる。ということで今回はこれでおしまい。